内科医が知らないことも多い。“全肝照射”を放射線治療医から提案すべき理由

肝臓に対する全肝照射って知っていますか?
― “もう何もできない”の前に、放射線治療医が動くべき理由 ―
最近の放射線治療は、
- SBRT
- IMRT
- Adaptive RT
- MRI-Linac
- 粒子線
など、“高精度”が中心になっている。
確かに時代は変わった。
しかしその一方で、
「昔からあるけれど、今でも患者を救える治療」
が忘れられつつある。
その代表の一つが、
全肝照射(Whole Liver Radiotherapy)
である。
若い放射線治療医でも、
実際に経験したことがない人は増えている。
だが、
- 多発肝転移
- 巨大肝腫瘍
- 肝腫大
- 被膜伸展痛
- 腹部膨満感
に苦しむ患者に対して、
全肝照射は今でも重要な選択肢になり得る。
肝臓の痛みは、本当に苦しい
肝臓自体には痛覚が少ない。
しかし、
- 肝被膜伸展
- 腫瘍増大
- 浮腫
- 門脈圧亢進
- 腹水
が起きると、
患者は強い苦痛を感じる。
特に多いのが、
- 右季肋部痛
- 背部痛
- 膨満感
- 食欲低下
- 呼吸苦
である。
そして進行例では、
オピオイドだけではコントロール困難なことも少なくない。
“もう抗がん剤がない”で終わっていないか?
ここが非常に重要である。
実臨床では、
- 化学療法終了
- 肝転移増悪
- PS低下
- BSC移行
となると、
内科側は、
「もう積極的治療は難しい」
という流れになりやすい。
しかし放射線治療医の視点では、
「症状緩和なら、まだできることがある」
場合がある。
その代表が、
全肝照射である。
全肝照射は「治す治療」ではない
ここを誤解してはいけない。
全肝照射は基本的に、
“症状緩和”
を目的とする。
例えば、
- 痛み軽減
- 膨満感改善
- 食事摂取改善
- 呼吸苦軽減
- QOL改善
である。
つまり、
“患者が少し楽になる”
ことを目指す。
だが、終末期では、
この意味は非常に大きい。
実際、効果はあるのか?
古典的な報告では、
- 8 Gy単回
- 20 Gy/10回
- 21 Gy/7回
など様々なfractionationが報告されている。
特に有名なのは、
低線量全肝照射による、
- 疼痛改善
- 食欲改善
- 腹部症状改善
である。
もちろん、
劇的な腫瘍縮小を期待する治療ではない。
しかし、
“症状緩和”
としては一定の役割を持つ。
特に、
- diffuse liver metastases
- massive hepatomegaly
- multiple lesions
では、
局所SBRTでは対応困難な場合もある。
なぜ今、全肝照射が再評価されるのか?
これは非常に面白い。
今の放射線治療は、
“高精度化”
が進みすぎた。
その結果、
「局所病変しか見なくなっている」
ことがある。
しかし実際の緩和医療では、
患者が苦しんでいるのは、
- 圧迫感
- 痛み
- 倦怠感
- 膨満感
である。
つまり、
“画像”ではなく、
“症状”
を見る必要がある。
全肝照射は、
まさにその発想に近い。
内科医は意外と知らない
これも重要である。
若い消化器内科医や腫瘍内科医では、
全肝照射自体を知らないケースもある。
なぜなら、
最近の教科書では大きく扱われないからである。
つまり、
待っていても紹介は来ない。
だからこそ、
放射線治療医側から提案する
必要がある。
例えば、
- 「症状緩和目的なら可能かもしれません」
- 「痛み軽減が期待できます」
- 「低侵襲でできます」
という一言だけでも、
患者選択肢は変わる。
SBRT時代だからこそ知っておくべき
最近の若手医師は、
- SBRT
- IMRT
- Adaptive
は詳しい。
しかし逆に、
- 全脳照射
- 半身照射
- 全肝照射
など、
古典的緩和照射経験が減っている。
だが実際の緩和医療では、
“派手な高精度”
より、
“患者が楽になる”
ことの方が重要な場面は多い。
つまり、
放射線治療医には、
「最新技術」
と
「古典的緩和照射」
両方を知る力が必要なのである。
理論と臨床は違う
論文だけ読むと、
全肝照射は“古い治療”に見えるかもしれない。
しかし現場では、
- ベッドから起きられない
- 食べられない
- 腹が張る
- 痛い
患者がいる。
そういう患者に対し、
短期間・低侵襲で、
少しでも症状改善を目指せるなら、
それは十分価値がある。
放射線治療は、
単なる局所制御競争ではない。
“患者の苦痛を減らす医療”
でもある。
まとめ
全肝照射は、
AI時代・SBRT時代でも、
今なお重要な緩和照射戦略である。
特に、
- 多発肝転移
- 肝腫大
- 被膜痛
- 膨満感
に対して、
QOL改善の可能性がある。
そして重要なのは、
内科医は知らないことも多い
という現実である。
だからこそ、
放射線治療医側から、
「こういう方法があります」
と提案する価値がある。
最新技術だけが放射線治療ではない。
患者が少しでも楽になるなら、
それもまた、
放射線治療医の重要な仕事なのである。
参考文献
- Soliman H, et al. Palliative radiotherapy for hepatocellular carcinoma and liver metastases. Ann Palliat Med. 2019.
- Dawson LA, et al. Partial irradiation of the liver. Semin Radiat Oncol. 2001.
- Seong J, et al. Whole liver radiotherapy for end-stage colorectal cancer patients with massive liver metastases. Acta Oncol. 2000.
- Terezakis SA, et al. Palliative radiation therapy for symptomatic hepatomegaly. Cancer. 2013.
- Yeo W, et al. Radiotherapy for hepatocellular carcinoma. Ann Oncol. 2004.
- ASTRO Palliative Radiotherapy Guidelines.


