胃がん止血照射後の効果判定はMRI?

~内視鏡なしで“止血効果”を確認する新たな方法~
胃がんが進行すると、時に**出血(下血・貧血・吐血)**が起こります。これは患者さんにとって大きな苦しみをもたらす症状です。これまで、こうした出血に対しては内視鏡による止血や外科手術が主な治療法でしたが、体への負担が大きく、実施できない場合もあります。
そこで近年注目されているのが、**放射線治療による“止血”です。しかも、その効果を内視鏡を使わずに“MRIで評価する”**という新しいアプローチが登場しています。
◆ 放射線治療で本当に止血できるの?
結論から言えば、はい、できます。
これを明らかにしたのが、2020年に発表された日本からのパイロット研究です(Tanaka et al., Br J Radiol 2020)。この研究では、20 Gy / 5回の少分割放射線治療によって、
- 80%の患者で止血が成功し、
- 急性期の有害事象(副作用)もほとんどなしという、非常に良好な結果が得られました。
さらに2022年には、全国19施設で実施された**多施設前向き研究(JROSG 17-3)**が発表され、こちらでも
- 輸血依存解除率良好
- QOL(生活の質)の明らかな改善
が報告されています(Saito et al., Gastric Cancer 2022)。
つまり、胃がんの出血に対して放射線治療は実際に効果があることが、複数の前向き臨床研究で証明されています。
◆ では、止血できたかどうかはどうやって確認するの?
ここが大きな課題でした。従来、治療後の確認には再度内視鏡を行う必要がありました。ですが、
- 高齢の方
- 病状が重い方
にとって、内視鏡は苦痛であり、再度の検査を拒否する患者さんも少なくありません。
◆ そこで登場したのが「MRIによる評価」
日本から、2022年・2023年にかけて次のような研究を報告されました:
● MRI(拡散強調画像)を使えば、出血や潰瘍の縮小を非侵襲的に見られる
- MRIの**DWI(Diffusion-Weighted Imaging)**というモードを使うと、
- 出血部分の水分量の変化、
- 腫瘍の“硬さ(拡散係数)”の変化
を目に見える形で確認できます。
● 腫瘍と脾臓のADC比を使えば、客観的に評価できる
- これはMRIで撮った画像の数値化によって、「治療効果が出ているか」を数式のように定量的に判断できるということです。
この論文の図はこちらからご覧いただけます:
https://link.springer.com/article/10.1007/s12328-018-0923-8
◆ なぜMRIが優れているのか?
評価方法 | 患者の負担 | 再現性 | リアルタイム性 |
---|---|---|---|
内視鏡 | 中〜高(苦痛あり) | 医師による差が大きい | 高いが侵襲的 |
MRI(DWI) | 低(非侵襲的) | 数値化できる | ややタイムラグあり |
MRIは、患者の負担を最小限にしながら治療評価を可能にする次世代の方法と言えます。
◆ まとめ:これからの胃がん止血治療のスタンダード
- 胃がんの出血には放射線治療が有効です。
- 線量は**20 Gy / 5 Fr(1週間)**という短期間で効果が期待できます。
- 内視鏡での再確認が難しい場合でも、MRIによる評価が新しい選択肢となります。
医学の進歩により、「つらい治療」から「やさしい治療」へと、がん治療も進化しています。もし、胃がんによる出血でお困りの方がいれば、「放射線治療という選択肢」そして「MRIによる評価」について、ぜひ主治医と相談してみてください。