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原発肺がんにSBRT、縦隔リンパ節に従来型RT:距離に基づくハイブリッド照射の可能性

臨床試験段階のデータです:取り扱い要注意

進行肺がんの放射線治療において、「原発巣と縦隔リンパ節転移が明確に離れて存在する場合」、治療戦略の自由度が広がっています。とくに注目されるのが、原発腫瘍には高線量・少分割の定位放射線治療(SBRT)を行い、縦隔リンパ節にはIMRTやVMATによる通常分割照射を行う“部位別ハイブリッド照射”戦略です。

従来、このような「異なる放射線治療法を組み合わせた設計」は毒性や計画上の複雑さから敬遠されてきましたが、近年の研究・臨床経験により実現可能性と有用性が高まりつつあります


◆ なぜ分けて照射するのか?

肺がんの原発腫瘍部と縦隔リンパ節が5 cm以上離れている場合、一括で同時照射すると、

  • 対側肺や心臓への被ばくが大きくなる
  • 治療計画が過度に複雑になる
  • 総照射線量を上げづらくなる

という課題が生じます。

このような症例では、原発巣に対してピンポイントにSBRTを実施し、縦隔部にはIMRTまたはVMATで緻密な照射を別途行うことで、

  • 局所制御率を上げながら
  • 毒性を最小限に抑える
    という、治療の最適化が期待されます。

◆ NRG-BR001試験の示した「5 cmルール」

2019年に報告されたNRG Oncology BR001試験は、複数病変に対するSBRTの安全性を検証したPhase I試験です。この研究では、病変間距離が5 cm以上離れている場合、複数部位へのSBRTが安全かつ許容範囲内の毒性で実施可能であることが示されました。

肺がんにおいても、原発巣と縦隔リンパ節が5 cm以上離れていれば、SBRT+conventional RTの並行施行が安全に行えるという考え方の根拠となっています。


◆ Frontiers in Oncology 2020:ハイブリッド計画の臨床例

Chen et al.(Frontiers in Oncology, 2020)は、肺原発+縦隔リンパ節の症例において、以下のような治療戦略を報告しています。

  • 原発巣:SBRT(50 Gy / 5 Fr)
  • 縦隔リンパ節:VMAT(60 Gy / 30 Fr)
  • 治療間隔:同時 or 順次施行(症例により調整)

このように線量・照射法を部位ごとに柔軟に変えることで、肺・心臓・食道への線量を抑えつつ、高い局所制御率を得たことが紹介されました。


◆ 他の関連研究

● Zhao et al., Radiation Oncology (2021)

肺癌患者におけるSBRTとIMRTの併用による複合照射を検討。病変が地理的に離れていれば、正常組織への線量は許容範囲内に収まり、副作用の増加は見られなかった。

● Takeda et al., J Radiat Res (2018)

局所進行肺がんに対するブースト照射としてのSBRT併用を提案。初回照射でリンパ節を従来照射し、原発腫瘍にSBRTを追加することで、腫瘍縮小と治療完遂率の向上が報告された。


◆ 実際の照射計画における注意点

項目推奨内容
距離条件原発巣とリンパ節間が5 cm以上離れていること
同時 vs 順次照射同時照射は注意深い線量管理が必要。順次照射の方が安全性が高いケースも
線量計画BED換算を正確に行い、OAR(肺・心臓・食道)の合算線量に留意
画像誘導SBRT部位には4D-CT、CBCT、IGRTなどを活用し、移動と不確実性を最小限に

◆ 今後の展望

このようなハイブリッド照射戦略は、個別化医療・部位別最適化という流れに合致しており、今後の標準治療の一部として定着する可能性があります。

特に、以下のような症例で有効と考えられます:

  • 原発巣が末梢型で、SBRTの適応がある
  • 縦隔リンパ節転移が広がっていない
  • PSが良好で治療耐性が懸念される患者

◆ 結論

**「原発巣にはSBRT、縦隔リンパ節にはIMRT/VMAT」**という発想は、肺がん治療における「柔軟性と精密性」の象徴とも言えます。

病変の距離、病期、患者の全身状態を丁寧に評価した上で、このハイブリッドアプローチを取り入れることで、治療成績の向上と有害事象の抑制を両立できる可能性があります。

今後のさらなる臨床研究と症例の蓄積により、より洗練された“照射の個別最適化”が進んでいくことが期待されます。

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