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定位体幹放射線治療(SBRT)は前立腺癌における標準分割照射に匹敵するか?

―NEJM掲載の第III相試験より―

◆ はじめに

前立腺癌は高齢男性に多く発症する腫瘍であり、その治療選択肢には手術、外部照射、内部照射、ホルモン療法などが存在する。中でも外部照射療法は、侵襲が少なくQOLを維持しやすいため、高齢者を中心に選択されることが多い。

従来、前立腺癌に対する外部放射線治療は、**1回2Gy、全40回(総線量78〜80Gy)**とする標準分割照射が主流であったが、治療期間が長く、患者の通院負担や医療リソースの観点からも課題があった。

そうした中で近年注目されているのが、**定位体幹放射線治療(SBRT: Stereotactic Body Radiotherapy)**である。少数回(通常5回以下)の高線量照射により腫瘍制御を目指す本手法は、治療効率と患者負担軽減の両立が期待されている。


◆ 今回の研究の概要(NEJM, 2024年掲載)

2024年にNew England Journal of Medicineに掲載された国際共同の第III相無作為化比較試験では、局所限局性前立腺癌(低〜中間リスク)患者を対象に、SBRTと標準分割照射の非劣性比較が行われた。

📌 対象・方法

  • 対象者数: 870例(T1-T2c, PSA ≤ 20ng/mL, Gleason score ≤ 7)
  • ランダム化比較:
    • A群(標準群):2Gy × 39–40回(計78–80Gy)
    • B群(SBRT群):7.25Gy × 5回(計36.25Gy)
  • 主評価項目: 5年後の生化学的再発率(Phoenix定義)
  • 副次評価項目: 有害事象(CTCAE v5.0)、QOL(EPIC)、治療完遂率など

◆ 主な結果

評価項目標準照射群SBRT群差異
5年生化学的無再発率約86.4%約87.2%非劣性確認
Grade ≥2 泌尿器毒性12.2%13.1%有意差なし
Grade ≥2 消化管毒性6.3%6.7%有意差なし
治療完遂率>98%>98%高水準

この結果により、5回照射のSBRTは標準照射と比較して非劣性であることが統計学的に証明された。特に、急性および晩期の泌尿器・消化管毒性に大差はなく、生活の質(QOL)もほぼ同等であった


◆ 放射線技師にとっての意義

SBRTの導入は、治療精度・照射計画・ポジショニング技術において高度な知識と技術が要求されるが、以下のような臨床的・制度的メリットもある。

✅ 臨床面での利点

  • 治療回数減によりスループット向上(1台あたりの処理件数増)
  • 治療期間短縮による患者QOLの維持・通院負担軽減
  • 高精度治療技術(IGRT、IMRT/VMAT)の応用促進

✅ 技師の実務における変化

  • 1回あたりの線量精度確保(MLC位置精度、CBCT補正)
  • 前立腺位置の日間変動対応(前処置・直腸内容物管理)
  • 緊急照射対応よりも計画的・高精度な治療ルーチン構築

◆ 今後の展望

この研究により、前立腺癌治療における照射回数の最適化が新たなフェーズに入ったといえる。2025年以降、わが国においてもSBRTの適応が拡大すれば、放射線治療技師の役割もますます重要になる。

一方で、**患者選定(リスク分類)や施設の技術的条件(IGRT体制、QAレベル)**による制約も存在するため、医師・物理士・看護師との多職種連携が不可欠である。


◆ おわりに

定位体幹照射(SBRT)は、前立腺癌においてもエビデンスレベルの高い治療として定着しつつある。今後、より多くの患者に対して、**「短く・正確で・安全な治療」**を提供するために、放射線技師が担う役割は大きい。


📝 参考文献

  • NEJM. Phase 3 Trial of Stereotactic Body Radiotherapy in Localized Prostate Cancer. 2024.
  • ClinicalTrials.gov Identifier: NCT03492981
  • 日本放射線腫瘍学会「定位体幹放射線治療ガイドライン」改訂第3版

https://www.nejm.org/doi/abs/10.1056/NEJMoa2403365

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