直腸がんの術前CRTとTNTを徹底解説。あなたの病院は何年前の治療ですか?

直腸がんに対する術前放射線化学療法
日本と世界ではこれだけスタンダードが違う
直腸がんほど、
日本と欧米で治療戦略が違う癌
は珍しい。
肺癌や前立腺癌は、
多少の違いはあっても基本的な方向性は同じである。
しかし直腸がんは違う。
日本の常識が、
欧米では非常識。
欧米の標準が、
日本では標準でない。
そんな領域なのである。
理論と臨床は違う。
そして国によっても違う。
世界標準は術前放射線化学療法
欧米では、
局所進行直腸がんに対して
術前放射線化学療法(CRT)+TME
が長年標準治療であった。
考え方はシンプル。
まず腫瘍を小さくする。
局所再発を減らす。
肛門温存率を上げる。
その後に手術する。
という戦略である。
日本の標準は少し違う
日本では長らく、
TME+側方リンパ節郭清(LLND)
が標準であった。
特に下部直腸がんでは、
側方リンパ節転移を
「局所病変」
として扱う。
だから外科的に取る。
欧米ではどうか。
側方リンパ節転移は
ほぼ遠隔転移に近い扱い。
そのため、
術前CRTで制御するという考え方である。
なぜこんなに違うのか
理由は歴史である。
日本は外科が強かった。
欧米は放射線治療が発展した。
その結果、
日本
↓
手術で取り切る
欧米
↓
放射線で局所再発を減らす
という文化が形成された。
JCOG0212が日本を変えた
日本の歴史を語る上で重要。
JCOG0212試験である。
この試験により、
側方リンパ節郭清の意義が証明された。
結果として、
現在も日本では
下部進行直腸癌に対するLLNDが重要視されている。
世界はさらに先へ進んだ
しかしここ数年で状況が変わった。
世界のトレンドは、
術前CRTですらない。
TNT(Total Neoadjuvant Therapy)
である。
TNTとは何か
従来
CRT
↓
手術
↓
補助化学療法
だった。
TNTでは
化学療法
↓
CRT
↓
手術
あるいは
CRT
↓
化学療法
↓
手術
を行う。
つまり、
手術前にすべての治療を終わらせる。
RAPIDO試験の衝撃
世界を変えた試験。
高リスク局所進行直腸癌に対して
TNTを行うことで
遠隔転移を減少させた。
それまでの課題は、
局所再発ではなかった。
遠隔転移だった。
だから全身治療を前倒しした。
これがTNTである。
PRODIGE23試験
さらに衝撃的だった。
mFOLFIRINOXを先行させることで
無病生存率改善が示された。
7年フォローアップでも効果は維持された。
現在の欧米
現在のASCO
ASTRO
ESMO
では、
高リスク局所進行直腸癌に対して
TNTが強く推奨されている。
つまり、
世界は
CRT時代
↓
TNT時代
へ移行したのである。
日本は遅れているのか?
そう単純ではない。
日本には日本の強みがある。
例えば、
側方リンパ節郭清。
欧米ではできない。
日本の外科医だからできる。
さらに近年は、
日本でも
MRIで側方リンパ節を評価し、
術前CRTや術前治療を組み合わせる施設が増えている。
つまり、
日本
vs
欧米
ではなく、
融合が始まっている。
放射線治療医として重要なこと
若い放射線治療医に伝えたい。
直腸がんは
単なる50.4Gy照射ではない。
重要なのは
- MRI読影
- CRM評価
- EMVI評価
- 側方リンパ節評価
- TNT理解
である。
照射技術だけではない。
戦略を理解する必要がある。
装置ではなく戦略なのである。
今後のトレンド
次のテーマは明らかである。
Watch and Wait
完全奏効例では
手術を省略できるか。
MRI評価
ADC
Radiomics
AI解析
個別化治療
本当にCRTが必要か
本当に手術が必要か
である。
生きるか死ぬかはエビデンスを知っているかどうか
少し強い表現かもしれない。
しかし事実である。
もし2026年に
「直腸がんは手術だけ」
と考えていたら、
世界標準から大きく遅れている。
現在は
- 術前CRT
- TNT
- MRI評価
- Watch and Wait
の時代である。
まとめ
直腸がん治療は今、
大きな転換点にある。
日本
- TME
- 側方リンパ節郭清
欧米
- 術前CRT
- TNT
が中心であった。
しかし現在は、
両者が融合し始めている。
重要なのは、
どちらが正しいかではない。
患者にとって最善は何か。
その視点である。
理論と臨床は違う。
高精度ではなく患者利益。
そして直腸がん治療も、
装置ではなく戦略の時代に入ったのである。
参考文献
- RAPIDO Trial
- PRODIGE 23 Trial
- ASTRO Clinical Guideline for Rectal Cancer 2025
- ASCO Guideline for Locally Advanced Rectal Cancer 2024
- ESMO Clinical Practice Guideline 2025
- Japanese Society for Cancer of the Colon and Rectum Guidelines


