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直腸がん放射線治療:日本と欧米の違い

― ガイドラインと大規模試験から見える「発想の分岐」 ―

直腸がん治療は、同じ「手術+(化学)放射線+薬物療法」を扱っていても、日本と欧米で“どこに主軸を置くか”が少し違う領域です。特に下部直腸がんでは、治療文化の差がはっきり出ます。今回は、ガイドラインと大規模試験のエビデンスを軸に、違いを整理します。


1. まず結論:日本は「手術(+側方郭清)」、欧米は「術前放射線(+TNT)」が中心になりやすい

日本では、下部直腸がんに対して TME(全直腸間膜切除)+側方リンパ節郭清(LLND) を標準治療として位置づけてきた歴史があります。JSCCR(大腸癌治療ガイドライン)でも、腫瘍下縁が腹膜反転部より肛門側で、進行度が高い場合に 側方郭清を適応とする考え方が示されています。PMC
一方欧米では、局所再発を抑えるために 術前放射線治療(短期照射SCRTまたは術前CRT)+TME が長年の標準で、「側方郭清」は“選択的”または施設限定の扱いが多い、という構図でした。Cancer Reports+1

この差は、「どちらが正しい」というより、局所再発リスクを“放射線で落とすか/手術で落とすか”の設計思想の違いに近いです。日本のLLNDは神経温存手技も含めて体系化され、欧米の術前RT/CRTは大規模試験で確立されてきました。PMC


2. 欧米が「術前(化学)放射線」を標準にしてきた根拠

欧米で術前CRTが強く支持された背景には、ドイツのCAO/ARO/AIO-94試験があります。術前CRTは術後CRTと比べて局所制御を改善し、毒性も減らしうる一方で、全生存への上乗せは限定的、という“直腸がんらしい結論”を示しました。
つまり欧米では、手術単独で取り切るのが難しい局所再発リスクを、術前の放射線で先に落とす発想が定着していったわけです。

さらに近年は、欧米ガイドライン(NCCN/ESMO)で TNT(Total Neoadjuvant Therapy) が重要度を増しています。高リスク局所進行(CRM脅威、EMVI陽性など)では、放射線(SCRTまたはCRT)に全身化学療法を前倒しで組み込む設計が推奨される流れです。JNCCN+2Cancer Reports+2


3. TNTの象徴:RAPIDO試験(欧州)

欧州の“トレンドの象徴”がRAPIDOです。短期照射(SCRT)→化学療法→TMEというTNTで、病勢関連イベントを減らす方向が示され、pCR増加などの反応性も注目されました。Lippincott Journals+1
一方で長期の局所再発など、解釈が一枚岩ではない点も議論されており、TNTは「万能」ではなく、ハイリスクを見極めて適用する治療として成熟してきています。Lippincott Journals+1


4. さらに一歩先:臓器温存(Watch & Wait)という欧米の熱量

欧米では、TNTでCR(完全奏効)あるいはnear-CRが得られた患者に対し、**手術を回避する“Watch & Wait”の議論が活発です。OPRA試験は、TNTを用いた計画的な臓器温存が一定割合で可能であることを示し、直腸温存戦略の「現実味」を押し上げました。
放射線治療の役割が「局所制御」だけでなく、
“臓器を残すための反応誘導”**として評価されるのが、欧米の今の空気感です。


5. 逆に欧米で起きている“放射線を減らす”動き:PROSPECT試験

面白いのは、欧米が常に「放射線を増やす」方向だけではないことです。PROSPECT試験は、一定の中間リスク直腸がんで FOLFOXを先行し、反応が良い症例では術前放射線を省略する戦略を検証し、疾患制御の非劣性を示しました。
つまり欧米は、TNTで“攻める”一方で、別の集団では“放射線を減らす”方向にも舵を切っています。放射線治療は今や「全員に同じ」ではなく、リスク層別化と目的(局所制御か臓器温存か毒性回避か)で使い分ける治療に進化しています。


6. では日本は?—「側方郭清文化」と「TNTの導入」が同時進行

日本の特徴は、下部直腸がんにおける側方リンパ節を「局所病変」と捉え、外科的に制御する設計が強いことです。欧米標準が術前CRT中心である点は、国内外の総説でも“対照”として整理されています。PMC+1
ただし近年は、日本でもTNTの概念整理・導入議論が進み、局所再発だけでなく遠隔転移リスクも見据えた治療設計が広がっています。J-STAGE


まとめ:日本と欧米の差は「放射線が不要」ではなく「使いどころの哲学」

  • 日本:TME+LLNDを軸に局所制御を設計しやすい(特に下部直腸)PMC+1
  • 欧米:術前RT/CRT+TMEが歴史的標準で、近年はTNT・臓器温存が拡大JNCCN+2Cancer Reports+2
  • さらに欧米ではPROSPECTのように、集団によっては放射線を減らす個別化も進む

直腸がんの放射線治療は、これからますます
**「どれだけ当てるか」より「誰に・何の目的で当てるか」**が主戦場になります。
日本の強み(精密な手術・側方郭清の経験)と、欧米の強み(TNT・臓器温存の大規模データ)を、患者ごとに“いいとこ取り”できる時代に入ってきた、と言えるでしょう。

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