📉 思い通りにいかない第Ⅲ相試験:新治療が逆に成績を下げた2例

新薬の登場は期待されますが、第Ⅲ相試験では逆に患者の成績が悪化するケースもあります。ここでは、陽子性試験の中立結果ではなく、効果が逆転したケースを2つ、詳しくご紹介します。
✖① Olaratumab による軟部肉腫治療-予想外の失敗(ANNOUNCE 試験)
🔍 試験概要
- 静脈内ドキソルビシンに Olaratumab を併用(新薬群) vs ドキソルビシン単独(対照群)
- 対象:切除不能または再発軟部肉腫患者
- 設計:多施設無作為化第Ⅲ相試験(ANNOUNCE)
📉 結果
- Phase II 試験では期待された OS 延長が見られたが、Phase III ANNOUNCE 試験では無益どころか生存期間は逆転。新薬併用群がドキソルビシン単独より成績が悪化。
- そのため、FDA/EMAは承認撤回、製薬メーカーは開発中止を発表
💡 教訓と示唆
- Phase II の良好データは過信禁物。Phase III での正確な検証が必須。
- 治療群に有害事象が多ければ、治療効果以上の毒性リスク増大につながる。
- 観察的治療デザインの限界と、多施設ランダム化の重要性が浮き彫りに。
✖② Lapatinib による胃癌治療-効果不達と副作用増加
🔍 試験概要
- 対象:HER2陽性進行胃がん患者
- 比較:標準化学療法群 vs 標準化学療法+Lapatinib
- 設計:第Ⅲ相無作為化二重盲検試験(国際的実施)
📉 結果
- 主要評価項目である全生存期間(OS)の統計的な改善なし。新薬併用群は 標準群と有意差なし(12.2 vs 10.5か月)。
-しかも有害事象が多く、下痢や脱水、貧血などが頻発。
💡 教訓と示唆
- 分子標的薬でも期待される効果が出ない場合がある。
- 特にGastric HER2陽性例では trastuzumabなど他薬との併用の方が効果的であった可能性。
- 毒性のバランス評価と QOL の観点が不可欠。
🔎 第Ⅲ相試験で期待が裏切られる背景と確率
- Phase III 試験の成功率は約50~60%程度といわれ、中立または劣勢な結果も珍しくありません。
- とくにPhase II での一部有望性が Phase III で否定されるケースは相応に多く、Olaratumab や Lapatinib の事例はその典型です。
🧠 医療現場における読み取り方
1. 期待値の管理とコミュニケーション
- Phase II データに基づく「早期承認」や「期待」は、Phase III で覆ることがある。
- 患者説明や治療選択時に、不確実性を踏まえた説明が重要。
2. 毒性管理と QOL 評価
- 成績が同等でも、有害事象が増加すれば相対的に適応が不利に。
- 患者報告アウトカム(PRO)や副作用プロファイルの情報収集が不可欠。
3. 治験デザインの注意点
- 治療プロトコルの厳格な遵守と 事前設定された中止基準。
- 無作為化の背景、解析の盲検性、症例登録時の選択バイアスにも注意。
✅ まとめとメッセージ
| 治療 | 成績結果 | 教訓 |
|---|---|---|
| Olaratumab + DOX | 成績悪化 | Phase II と Phase III の乖離/毒性増@高位 |
| Lapatinib + CT | 有意差なし+毒性増 | 分子標的薬でも慎重な評価必要/QOL重視 |
未来の抗がん剤治療においては、「良いデータ=有効薬」ではないという認識が不可欠です。
放射線治療を含めた総合治療計画においても、臨床試験結果を批判的に読み取り、患者に最適な提案を行える能力が、これからますます重要になります。


