🔍 医師・技師に伝えたい「看護研究」の本質

― 見ているのは“人”の動きと“現場”の文脈 ―
1. 医学研究と看護研究は、目的が違う
| 観点 | 医学研究 | 看護研究 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 疾患のメカニズム解明、治療効果の検証 | ケアの質・患者体験・医療安全・チーム運営などの改善 |
| 対象 | 臓器・病態・薬剤・治療法 | 患者・家族・医療者・職場文化・ケアプロセス |
| 方法 | 実験・臨床試験・統計解析 | 面接・観察・アンケート・実践現場の分析 |
| 成果物 | エビデンス(薬効・治療成績) | 改善策・教育法・安全文化・実践モデル |
→ 医学研究が「疾患」を中心に据えるのに対し、看護研究は「人とケアの関係性」を中心に据えます。
つまり、看護研究の焦点は「なぜこの現場で同じエラーが起こるのか」「なぜ患者が安心できないのか」など、“人間の行動”と“環境”にあります。
2. 医師が誤解しやすいポイント
❌ 「看護研究=アンケートや感想文の集計」
→ 実際は違います。
たとえば、「確認を怠るスタッフの心理」「患者が説明を理解できない背景」「新人教育が定着しない原因」など、人の行動の“なぜ”を明らかにする科学的探究が看護研究です。
❌ 「再現性が低い」
→ 数値化しにくい部分(感情・態度・関係性)を扱うため、統計的な再現性よりも**文脈再現性(なぜそうなったかを説明する力)**が重視されます。
この違いが、医学研究との大きな特徴です。
3. 質的研究とは何か?
🧩 「データを“数”ではなく“意味”で捉える研究」
- 医学研究では「数値化・比較・有意差」が中心ですが、
看護研究では「語り・経験・背景」をもとに意味の構造を明らかにします。 - たとえば「なぜ確認行動を怠るのか?」を問う場合、
数値ではなく、インタビューや観察で得た言葉を分析してカテゴリー化します。
🗂 主な手法
| 手法 | 概要 | 使用例 |
|---|---|---|
| SCAT法 | データを4段階で意味抽出(簡易かつ実用的) | 小規模病棟や教育現場での要因分析 |
| グラウンデッド・セオリー | データから理論を生み出す方法 | 新人教育モデル、ケアプロセス研究 |
| 内容分析法(Berelson, Krippendorff) | 発言や記録をカテゴリー化 | インシデント要因、看護記録分析 |
🔎 量的研究との違い
| 項目 | 量的研究 | 質的研究 |
|---|---|---|
| データの形 | 数値 | 言葉・経験 |
| 目的 | 効果・関係の検証 | 意味・背景の理解 |
| 結果の形 | グラフ・表 | カテゴリー・概念モデル |
| 代表的アウトプット | “AはBを改善する” | “Aが起こるのはBという背景があるから” |
4. 医師が看護研究を理解すると見えてくる世界
- チーム運営や医療安全の根本原因が見える。
→ 「インシデントは誰のせいか」ではなく、「なぜ確認が抜ける文化になっているか」が分かる。 - **患者体験の質(Patient Experience)**を改善する実践的知見につながる。
→ 医学研究が“治す”方向、看護研究が“支える”方向を担う。 - 教育・マネジメントの科学化に役立つ。
→ リーダー教育、モチベーション、バーンアウト対策などは、質的研究が得意とする領域。
5. 医師と看護師が協働できる研究の形
| 医師主導テーマ | 看護師の研究視点 |
|---|---|
| 新治療導入後の副作用管理 | 看護師によるセルフケア支援の実際と課題 |
| 外来の待ち時間短縮 | 患者の待ち時間ストレス要因と対処行動 |
| チーム医療の効果検証 | 医療職間の情報共有・安全文化の可視化 |
| 緩和ケア導入効果 | 患者・家族の理解過程と心理的支援 |
つまり、医学研究が「治療の最適化」を担い、看護研究が「人の適応・支援の最適化」を担う関係にあります。
両者は競合ではなく、補完し合う科学なのです。
🩵 まとめ
- 医学研究は「病気を治す科学」
- 看護研究は「人と環境を整える科学」
- 質的研究は「人の行動や感情の“意味”を探る方法」
そして、どちらも患者のQOLを高めるための科学。
“臓器”をみる医学と、“人”をみる看護。
この2つがかみ合ったとき、真のチーム医療が生まれます。


