ロボット手術 vs 放射線治療 ― 臨床試験から見る「二大選択肢」のエビデンス

はじめに
前立腺がんや子宮頸がんなどの固形腫瘍では、根治的治療として「手術」か「放射線治療」かを選択する場面が多い。近年はロボット支援下手術(主にダヴィンチシステム)が普及し、患者にとって「低侵襲であること」が魅力となっている。一方、放射線治療もIMRTやSBRTなど技術革新が進み、副作用低減と腫瘍制御力の向上を実現している。
では、臨床試験ではどのように比較されているのか?ここでは代表的な論文を紹介しながら、そのエビデンスを整理していく。
1. 前立腺がん:ProtecT試験(NEJM, 2016)
試験概要
- 対象:局所前立腺がん 1643例
- 比較:前立腺全摘(当時は開腹・腹腔鏡主体だがロボット手術も含まれる)、外照射放射線療法、能動的監視
- 結果:10年全生存率は各群でほぼ同等(約99%)。がん特異的死亡率にも有意差なし。
意義
- 手術と放射線治療の「生存効果」は同等。
- ただし副作用のプロファイルは異なる。手術群は尿失禁が多く、放射線群は排便障害が多かった。
まとめ:治療選択は「生存率」ではなく「生活の質(QOL)の違い」を基準にすべきであることを示した landmark trial。
2. 前立腺がん:LAPPRO試験(Lancet Oncology, 2018)
試験概要
- 対象:スウェーデンで実施された前向き比較研究
- 比較:ロボット支援下前立腺全摘 vs 従来の開腹手術
- 結果:腫瘍制御には差がなく、尿失禁率や勃起機能障害においても明確な優位性は証明されなかった。
意義
ロボット手術は「低侵襲」という利点で普及しているが、長期成績や機能温存における決定的な優位性はまだ限定的であることを示した。
まとめ:患者に説明するときは「ロボットだから必ずしも優れているわけではない」と伝える必要がある。
3. 子宮頸がん:LACC試験(NEJM, 2018)
試験概要
- 対象:早期子宮頸がん患者
- 比較:腹腔鏡またはロボット支援下広汎子宮全摘 vs 開腹手術
- 結果:意外なことに、腹腔鏡・ロボット群で再発率が高く、生存率も低下した。
意義
- 当時普及し始めていた「低侵襲手術」に大きな警鐘を鳴らした試験。
- 以後、米国NCCNガイドラインでも早期子宮頸がんにおけるロボット支援下手術の推奨は撤回された。
まとめ:ロボット手術が常に「安全で優れている」とは限らない。がん種や状況によっては従来の開腹手術が依然として標準である。
4. 前立腺がん:ロボット手術 vs 放射線治療の観察研究(JAMA, 2017)
試験概要
- 対象:局所前立腺がん患者 約6000例
- 比較:ロボット支援下手術 vs 放射線治療(外照射)
- 結果:生存率に差はなく、副作用の傾向はProtecT試験と同様。手術群で尿失禁、放射線群で腸管障害が目立った。
意義
大規模観察研究でも、両者の「治療成績」はほぼ同等であり、副作用の性質が異なるだけであることが裏付けられた。
総括:エビデンスから見える「正解は一つではない」
| 試験名 | 比較 | 主な結論 |
|---|---|---|
| ProtecT(NEJM, 2016) | 手術 vs 放射線 vs 監視 | 生存率同等、副作用プロファイルに違い |
| LAPPRO(Lancet Oncol, 2018) | ロボット vs 開腹手術 | 腫瘍制御差なし、機能温存に優位性限定的 |
| LACC(NEJM, 2018) | ロボット/腹腔鏡 vs 開腹(子宮頸がん) | 低侵襲群で生存率低下、ガイドライン修正へ |
| JAMA観察研究(2017) | ロボット手術 vs 放射線 | 成績は同等、副作用パターンが異なる |
まとめ:患者とともに選ぶ「二大治療の未来」
- ロボット手術も放射線治療も「生存率」では優劣をつけがたい。
- 違いは「どの副作用を受け入れるか」「患者の生活にどんな影響を与えるか」にある。
- 子宮頸がんのように、エビデンスによって標準治療が大きく変わるケースもある。
結局のところ、**「正解は患者ごとに違う」**ということだ。
医師と患者が十分に話し合い、エビデンスと価値観の両方を踏まえて治療を選ぶことが、最良の結果につながる。


