放射線腫瘍医が知っておきたい胃癌・大腸癌の化学療法アップデート

近年、消化器がんの治療は劇的に進化しており、新規抗がん剤やバイオマーカーの導入によって個別化治療が進んでいます。一方で、放射線腫瘍医がその最新情報に日々キャッチアップするのは容易ではありません。しかし、化学療法との併用、タイミングの調整、照射野の設計など、放射線治療の判断に薬物治療の理解は不可欠です。本稿では、特に胃癌と大腸癌における標準治療および最近のトピックを簡潔に整理し、放射線腫瘍医が臨床現場で即座に活かせるようなポイントをお伝えします。
胃癌の化学療法の流れと最新動向
1. 切除可能なStage II/IIIに対する術後補助療法(Adjuvant)
日本では術後S-1単剤療法が長らく標準でした(ACTS-GC試験)。しかし、最近では腫瘍の進行度(pStage III)によっては**S-1 + docetaxel併用療法(JACCRO GC-07試験)**が選択肢となっています。
欧米では術前化学放射線療法(CROSS試験)や術前化学療法(FLOT4試験)の適応が増えており、放射線治療の関与はより積極的です。
2. Stage IV/切除不能進行・再発胃癌に対する1stライン治療
HER2陰性例では以下が主流です:
- **S-1 + oxaliplatin(SOX)**または
- CapeOX(カペシタビン + オキサリプラチン)
HER2陽性例では:
- trastuzumab(トラスツズマブ)+ フルオロピリミジン + プラチナ製剤
(ToGA試験に基づく)
最近ではさらに、PD-L1高発現例(CPS≧5)を中心にnivolumab(ニボルマブ)併用が加わるようになりました(CheckMate-649試験)。
3. 2ndライン以降の治療
- paclitaxel + ramucirumab(RAINBOW試験)
- FOLFIRIやS-1単剤
- FGFR2b過剰発現には**Zolbetuximab(CLDN18.2)**が新規薬として承認間近
放射線腫瘍医にとっての要点:
- 放射線治療の適応は、止血照射や疼痛緩和が中心。ただし、術前照射や転移巣へのSBRTの役割も国際的には拡大傾向。
- 免疫チェックポイント阻害薬と放射線併用のシナジー効果への期待があり、試験的照射を含む議論が増加中。
大腸癌(結腸・直腸癌)の化学療法と位置づけ
1. 切除可能結腸癌(Stage II/III):
術後補助化学療法として、
- CapeOX(カペシタビン + オキサリプラチン)
- FOLFOX(5-FU + leucovorin + オキサリプラチン)
が主流。特にStage IIIでは標準治療。オキサリプラチンの累積神経障害に留意が必要。
2. 切除可能直腸癌では:
欧米では**術前化学放射線療法(CRT)**が中心で、Total Neoadjuvant Therapy(TNT)という概念が定着。
- 短期放射線療法(5×5Gy)→ 化学療法 → 手術
- 長期CRT(45–50.4Gy + 5-FU)→ 手術
日本では手術優先が基本であり、CRTは再発高リスク例や臨床試験例で用いられます。
3. Stage IV/切除不能進行・再発大腸癌:
分子標的薬の組み合わせが鍵。
- RAS/BRAF変異の有無
- 左側/右側発生の違い
左側・RAS/BRAF野生型では:
- FOLFOXIRI + 抗EGFR抗体(cetuximab/panitumumab)
右側やRAS/BRAF変異例では:
- FOLFOXIRI + bevacizumab(抗VEGF)
近年注目されている薬剤:
- 免疫チェックポイント阻害薬(MSI-H/dMMR例)
- Trifluridine/tipiracil(FTD/TPI)
- BRAF阻害薬 + MEK阻害薬 + 抗EGFR抗体(BRAF変異例)
放射線腫瘍医の役割:
- 直腸癌における術前放射線療法は国際的に標準治療
- 局所再発例や骨転移に対するSBRTなど適応が拡大中
- 腸管への線量制約の重要性が高まっており、薬物治療との適切なスケジューリングが鍵
まとめ:放射線腫瘍医はどう向き合うか?
- 最新の薬物治療の理解なしには、効果的な照射範囲の設計やタイミングの最適化が難しくなっています。
- 免疫チェックポイント阻害薬や標的薬の併用によるシナジーが今後さらに研究され、放射線治療の可能性は拡大。
- 自施設の腫瘍内科医や外科医との定期的な勉強会や情報共有を通じて、最新の薬物治療戦略を理解することが今後の質の高い照射につながります。


