「PACE‑A試験」前立腺癌:手術 v.s. SBRT

患者QOLに焦点を当てた眼差し
はじめに
局所性前立腺がんに対し、手術(根治的前立腺摘除術)と最新技術・定位放射線治療(SBRT)のどちらがよいのか? 伝統的には生存成績を中心に検討されてきましたが、「患者中心の視点=生活の質(QOL)」がますます重要視されています。
ここで注目したいのが、2024年に報告されたPACE‑A試験。これは、**患者報告アウトカム(PRO)**を主要評価項目とし、SBRTと手術との比較を初めてランダム化試験で行った意欲的な試験です。
PACE‑A試験の概要
- 名称:PACE‑A(Phase III randomized trial comparing radical prostatectomy and SBRT)
- 対象:局所性前立腺がん(低リスク〜中間リスク)の患者
- デザイン:ランダム化・第III相・オープンラベル試験
- 割り付け:前立腺摘除 vs SBRT(それぞれ約60名ずつ)
- 主要評価項目(COPR):
- 2年後の尿漏れ状況(1日あたりパッド必要数)
- 便に関する症状スコア(EPIC-26のボウル領域)
- 副次評価:医師報告による毒性プロファイル、性機能などの他のPRO
対象は2012年〜2022年に登録され、患者数は123名。中央値5年の追跡あり。
主な結果:QOLの視点で明確な差が
尿失禁(尿パッド使用)
- 手術群:32人中16人(50%)が1日1枚以上使用
- SBRT群:46人中3人(6.5%)が1日1枚以上使用
- 推定群差:43%(95%CI:25~62%)、明確な有意差あり
便症状スコア(EPIC‑26)
- 手術群中央値:100(IQR 100–100=プロファイル非常に良好)
- SBRT群中央値:87.5(IQR 79.2–100)
- スコア差は約8.9ポイント、便に不便さありという結果
性機能スコア
- 手術群:中央値18(非常に低い)
- SBRT群:中央値62.5(比較的高水準)
- 性機能においてSBRTに明らかな優位性あり
考察と制限点
- 集団規模は日本の多施設試験と同程度(約120名)
- 2年追跡では顕著なQOL差があるが、局所再発や生存データは未報告
- 参加者追跡の不完了や集団の選択バイアスなど注意点もあり westmid.openrepository.com
医療現場へのインプリケーション(医学物理士への視点)
1. QOL重視の治療選択
- 患者との意思決定では、生存率だけでなく「尿・便・性機能の状況」も重視される
- 医学物理士は、SBRTの精度・再現性を担保しながら、QOLへの影響を最小化する技術を担う必要あり
2. SBRTの高精度QA
- 部位応答性差(後部前立腺までの被ばく)や不規則な体動などへの対処
- PTVマージンや整合精度(ゴールドマーカー+CBCT・リアルタイム追跡など)が鍵
3. PROを含めた評価体制の構築
- 物理的な線量・計画精度の評価に加え、PRO収集体制への協力が望ましい
- 治験では看護師と共同でPROの取得・管理を行うケースもあり
4. 治療選択ガイドへの反映
- 早期前立腺がんでは「生存はほぼ同等」という知見もあり(ProTECT試験15年フォロー)
- SBRTのQOL優位はエビデンスとして今後のガイドラインに反映される土台となる可能性大
総括と見通し
- PACE‑A試験は、「生活の質」でのSBRT優位性を初めて第III相試験で実証した重要な研究。
- しかし、生存アウトカム、長期毒性、局所再発の評価は今後の課題。
- 医療現場では、患者ニーズと技術精度を両立させる「個別化治療」が強く求められており、医学物理士の役割は今後ますます重要となります。
SBRTが「選択肢」から「標準の一翼」へと変わる可能性を秘めたこの試験、ぜひ理解を深め、臨床に活かしてください。


