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Lancetの歴史とがん治療の進歩 ― 社会派医学誌の200年

はじめに

医学雑誌の二大巨頭といえば「NEJM」と「Lancet」。NEJMが「科学的エビデンスの羅針盤」なら、Lancetは「社会に挑む医学誌」と言えるだろう。1823年に創刊され、2023年に200周年を迎えたLancetは、医学の進歩だけでなく医療制度や社会的公正にも積極的に関与してきた。
本稿では、その歴史を振り返りつつ、がん治療の進化とLancetに刻まれた重要な瞬間を重ね合わせてみたい。


1. Lancet創刊 ― 外科医ウェイクリーの挑戦

Lancetは1823年、若き外科医トーマス・ウェイクリーによってロンドンで創刊された。
当時、医療界は閉鎖的で、医学知識は一部の権威者に独占されていた。ウェイクリーはこれに反発し、「誰もがアクセスできる開かれた医学誌」を目指したのである。
彼が雑誌名に選んだ「Lancet(柳葉刀)」には、外科用メスの意味だけでなく、「暗闇に光を投げかける窓」という象徴的意味もあった。

この精神は今日まで受け継がれ、Lancetは科学と社会の両面に光を当てる雑誌として位置づけられている。


2. 19世紀から20世紀初頭 ― 公衆衛生とがん外科

Lancetは創刊直後から、外科手術だけでなく衛生状態・労働環境・公衆衛生政策を積極的に批判・提言する場となった。
がん治療に関しては、当時は外科切除が唯一の治療法であり、Lancetにも乳がん切除や喉頭摘出などの報告が掲載された。しかし本誌の真価は、がんそのものよりもがん患者を取り巻く社会環境(衛生・生活条件)への問題提起にあった。


3. 放射線治療の黎明期 ― Lancetが伝えたレントゲンの衝撃

1895年にレントゲンがX線を発見すると、その臨床応用は急速に広がった。LancetはX線診断や治療の初期報告を掲載し、皮膚がんや乳がんの放射線治療が世界に知られるきっかけを作った。
当時の論文には「腫瘍が縮小した」という驚きの記録と同時に「皮膚潰瘍や壊死を生じた」という副作用の報告もあり、Lancetは科学の光と影を余すことなく伝えている。


4. 化学療法と臨床試験文化の浸透

20世紀半ば、抗がん剤の登場はLancetにも数多く掲載された。とくに注目されたのは、シクロホスファミドやビンクリスチンなどの抗腫瘍薬に関する初期報告である。
Lancetは単なる成功例だけでなく、副作用や治療失敗例も積極的に掲載し、臨床現場のリアルを共有する姿勢を示した。
また、ランダム化比較試験(RCT)の文化が英国で根付く中で、Lancetはがん治療を科学的に検証する場として大きな役割を果たした。


5. 世界を揺るがしたLancet論文とがん治療

乳がんスクリーニングの議論

1970~80年代には、マンモグラフィによる乳がん検診の有効性を検証する論文がLancetに掲載された。これは公衆衛生政策にも直結し、「検診の利益と過剰診断リスク」を巡る世界的議論を引き起こした。

HPVワクチンと子宮頸がん

2000年代には、HPVワクチンの有効性を示す大規模臨床試験がLancetに掲載され、世界のワクチンプログラム導入に大きな影響を与えた。Lancetは単なる治療法だけでなく、「がん予防」を世界規模で推進した点で画期的であった。


6. 21世紀 ― 分子標的薬・免疫療法の登場

LancetはNEJMと並び、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤の臨床試験結果を数多く掲載している。
例えば肺がんに対するEGFR阻害薬ゲフィチニブの初期試験や、メラノーマに対する免疫療法の長期追跡報告などはLancetから発信された。
これらは臨床現場に直結するだけでなく、医療経済やアクセスの問題に踏み込んだ論評とセットで掲載されることが多く、Lancetらしい「科学と社会の両立」が示された。


7. Lancetと社会的責任

Lancetの最大の特徴は、単に医学的成果を報告するだけでなく、医療の不均衡や社会的課題を告発する姿勢にある。
がん治療においても、低中所得国での薬剤アクセス、緩和ケア不足、ジェンダーや社会的格差による治療格差などを特集として取り上げ、世界的な政策提言につなげてきた。
これはNEJMにはあまり見られないLancet特有の役割といえる。


まとめ ― NEJMとLancet、がん治療を映す二つの鏡

  • NEJM:科学的エビデンスを厳密に積み上げ、治療の標準を形作ってきた。
  • Lancet:医学と社会の関係に焦点を当て、医療政策や公平性を重視してきた。

両者はアプローチこそ異なるが、がん治療の歴史的節目には必ず名前が登場する。
外科時代から放射線、化学療法、分子標的薬、免疫療法、そしてゲノム医療へ――がん治療の進歩を世界に伝え続ける媒体として、Lancetはこれからも「柳葉刀」の名の通り、暗闇を切り開き、光を差し込む役割を担い続けるだろう。

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