良性疾患にも放射線治療は使われる?

ケロイド・バセドウ病など、実は歴史のある適応
「放射線治療=がんの治療」
そう思っている方は多いと思います。
しかし実際には、放射線治療は良性疾患にも使われてきた長い歴史があります。
現在でも、条件を厳密に選んだうえで、
有効性と安全性が確認されている良性疾患がいくつか存在します。
今回は代表的な
- ケロイド
- バセドウ病
を中心に、「なぜ放射線が効くのか」「どんな位置づけなのか」を解説します。
そもそも、なぜ良性疾患に放射線?
放射線治療の本質は、
増殖の盛んな細胞の働きを抑えること
です。
がん細胞だけでなく、
- 線維芽細胞
- 免疫細胞
- 内分泌臓器の機能細胞
など、**異常に活性化している“正常細胞”**に対しても、
適切な線量を用いれば治療効果が得られることが分かっています。
もちろん、
- 線量
- 照射範囲
- 年齢
- 代替治療の有無
を慎重に考慮する必要があります。
① ケロイド・肥厚性瘢痕への放射線治療
― 再発を防ぐための「補助療法」 ―
● ケロイドとは?
傷が治る過程で、
- 線維芽細胞が過剰に増殖
- コラーゲンが過剰産生
され、
赤く盛り上がり、痛みやかゆみを伴う瘢痕となる状態です。
手術単独では再発率が非常に高く、
部位によっては 50〜90% と報告されることもあります。
● 放射線はいつ使う?
ケロイドでは、
手術で切除した直後に、低線量の放射線を追加する
という使い方が基本です。
- 手術:すでにできた瘢痕を除去
- 放射線:再び増えようとする線維芽細胞を抑える
この組み合わせにより、再発率は大きく低下します。
● 線量は?
がん治療とは全く違う、非常に低い線量です。
- 例:
- 12〜20 Gy 程度
- 数回に分けて照射
照射範囲も瘢痕周囲に限定され、
全身被ばくとは無縁です。
● 安全性は?
- 皮膚の一時的な赤み
- 色素沈着
などが主な副作用で、
二次がんのリスクは極めて低いとされています(特に成人)。
👉 そのため、
- 再発を繰り返す
- 生活の質を大きく下げている
ケロイドでは、標準的な選択肢の一つとして位置づけられています。
② バセドウ病(甲状腺機能亢進症)と放射線
― 「放射線=外照射」ではない代表例 ―
バセドウ病で使われる放射線治療は、
一般的なリニアックによる外照射ではありません。
● 放射性ヨウ素治療(I-131)
これは、
甲状腺がヨウ素を取り込む性質を利用した内部放射線治療
です。
- 放射性ヨウ素を内服
- 甲状腺に集積
- 内部から甲状腺機能を抑制
という非常に理にかなった治療です。
● なぜ効くの?
甲状腺はヨウ素を選択的に集めます。
そのため、
- 他の臓器への影響は最小限
- 甲状腺だけに放射線が届く
という臓器選択性の高い治療が可能です。
● 適応は?
- 抗甲状腺薬が効かない
- 副作用で内服継続が難しい
- 再発を繰り返す
といったケースで選択されます。
結果として、
- 甲状腺機能低下症になることはある
- ただし、内服でコントロール可能
という点を理解したうえで行われます。
③ その他の良性疾患への放射線治療
現在も、国や施設によって以下のような適応があります。
- 眼窩炎症性疾患(甲状腺眼症など)
- 異所性骨化(整形外科手術後の予防)
- 神経痛・炎症性疾患(欧州で比較的多い)
特に欧州では、
疼痛緩和や炎症抑制を目的とした低線量放射線治療が
日本より広く使われている地域もあります。
良性疾患だからこそ「慎重さ」が重要
良性疾患への放射線治療で最も大切なのは、
「やらないリスク」と「やるリスク」を天秤にかけること
です。
- 代替治療は十分か
- 症状はどれほど生活に影響しているか
- 年齢は適切か
- 照射範囲・線量は最小限か
これらを総合的に判断し、
“放射線が最善の選択肢になる場合だけ”使われる
という位置づけです。
まとめ
- 放射線治療はがん専用ではない
- 良性疾患にも、
- 理論的背景
- エビデンス
- 長年の臨床経験
がある適応が存在する
- ケロイドやバセドウ病は、その代表例
- 重要なのは「低線量・限定範囲・慎重な適応判断」
放射線治療は
“強い治療”ではなく、“適切に使えば非常に穏やかな治療”にもなる
それを最も分かりやすく示しているのが、
良性疾患への放射線治療なのかもしれません。


