CBCT・SGRT時代、放射線治療の固定具に「mm精度」は本当に必要か?

CBCT・SGRT時代、固定具にどこまでお金をかけるべきか?
放射線治療の現場で、最近よく見かけるようになったものがあります。
ダブルシェルマスクです。
特にSRS・SRTでは、従来型の固定具からダブルシェルやオープンフェイス型の固定具へ移行する施設も増えています。
そして、ここで一度考えてみたいことがあります。
固定具に、どこまでお金をかける必要があるのでしょうか?
「定位放射線治療だから、最高級の固定具を使う。」
「高精度治療だから、固定具も高精度なものを。」
一見すると正しいように思えます。
しかし、現在の放射線治療workflowを考えると、少し違った見方もできます。
昔の固定具と、今の固定具は役割が違う
昔の放射線治療では、
患者を動かさないこと
が固定具の大きな役割でした。
CTを撮影し、
治療計画を作り、
レーザーで位置合わせをして、
そのまま照射する。
だから、
固定具そのものの再現性
が非常に重要でした。
しかし現在は違います。
CBCTがあります。
6DoF couchがあります。
SGRTがあります。
IGRTがあります。
つまり、
患者が少しずれたとしても、それを画像で検出して修正する
というworkflowが一般的になっています。
CBCTが「内部の答え」を教えてくれる
CBCTの最大の意味は、
患者の現在位置を確認できること
です。
皮膚の位置だけを見ているわけではありません。
骨構造を基準に、
「計画時と現在の患者位置がどれだけ違うのか」
を確認できます。
特に頭部SRS/SRTでは、
SGRTで初期位置を合わせる
↓
CBCTで内部位置を確認
↓
6DoF couchで修正
↓
修正後のsurfaceをSGRTのreferenceにする
というworkflowが構築できます。
AAPM TG-302でも、frameless SRSではSGRTによる初期セットアップ後、CBCTなどの内部画像で最終的な位置を確認し、その後の治療中はSGRTでモニタリングするworkflowが示されています。
つまり、
固定具だけで完璧な位置を作る必要性は、昔より小さくなっている
わけです。
SGRTがさらに考え方を変えた
そして、もう一つ大きな変化があります。
SGRTです。
Surface Guided Radiation Therapy。
患者の体表面をリアルタイムで追跡します。
これによって、
- 初期セットアップ
- 治療中の動き
- 姿勢変化
- 患者の体動
- 治療中断の判断
などが可能になります。
AAPM TG-302は、SGRTを単なる「位置合わせ装置」ではなく、初期位置決め、リアルタイムモニタリング、beam gatingなどを含む総合的なworkflowとして位置づけています。
ここが重要です。
固定具単体で患者を完全に止める。
という考え方から、
固定具+CBCT+SGRT+6DoFで患者位置を管理する。
という考え方へ変わってきています。
では「マスクのmm精度」は不要なのか?
ここは誤解してはいけません。
不要ではありません。
SRS/SRTでは依然として高いセットアップ精度が必要です。
AAPM TG-302でも、frameless SRSではSGRTの許容値として1 mm程度の並進・1°程度の回転を基本にし、最終的にはCBCTなどの内部画像で確認するworkflowが示されています。
また、2025年の研究でも、SRS用の異なる熱可塑性マスクの剛性を比較すると、マスクの種類によって頭部の回転・移動制限に差が生じることが示されています。
したがって、
「安いマスクなら何でもいい」
という話ではありません。
重要なのは、
必要な固定性能を満たしているか
です。
本当に考えるべきなのは「マスク単体の精度」ではない
ここからが今回の記事の本題です。
放射線治療の精度を、
マスクだけで決める必要があるのでしょうか?
例えばSRSなら、
① マスク
患者の頭部を安定した位置に保持する。
↓
② SGRT
体表面を見て初期位置を合わせる。
↓
③ CBCT
骨構造を基準に内部位置を確認する。
↓
④ 6DoF couch
並進・回転を修正する。
↓
⑤ SGRT
修正後の位置をリアルタイム監視する。
↓
⑥ 照射
許容値を超えればbeam holdや再位置合わせを行う。
このworkflowなら、
マスクにすべての仕事を背負わせる必要はありません。
実際、オープンフェイスマスクでも十分な精度が得られている
興味深い研究があります。
2024年のランダム化自己対照試験では、脳腫瘍患者30例を対象にopen-face maskとclosed maskを比較。
open-face maskでは患者の不快感が明らかに少なかった一方、位置決め・固定精度を損なわないという結果が示されました。
さらに2025年のOPEN phase III trialの中間解析では、closed maskと3-point、5-point open maskで、治療中の動きに臨床的に意味のある差は認められず、必要なintrfraction marginも同等でした。SGRTはCBCTだけでは捉えにくい一過性の動きも検出しました。
そして2026年の研究では、脳転移のSRT/SRS 180コースを解析し、open-face mask+SGRTはclosed-face maskと比較して、全体として同等のセットアップ精度を保ちながら、回転安定性やsetup-related deviationで良好な結果が示されています。
つまり、
「顔を完全に覆う高価な固定具ほど高精度」
という単純な図式ではありません。
固定具の役割は「active」から「passive」へ?
AAPM TG-302には非常に興味深い記述があります。
SGRTのリアルタイムモニタリングが普及すると、固定具の役割そのものが変化する可能性がある。
つまり、
患者を強制的に動かさないactive immobilization
から、
患者が快適に正しい姿勢を維持するためのpassive immobilization
へ。
実際、SGRTを用いたframeless SRSでは、マスクなしのhead moldまで検討されています。
これはかなり大きなパラダイムシフトです。
「高価=高精度」という考え方を一度リセットする
もちろん高価な固定具には、
- 剛性
- 再現性
- 成形性
- 耐久性
- 患者適合性
- システムとの互換性
などのメリットがあるかもしれません。
しかし、
価格と臨床的な精度が比例するとは限りません。
ここは冷静に評価する必要があります。
例えば、
「A社のマスクは1枚○万円」
「B社のマスクは1枚○千円」
だったとします。
そこで、
「高い方が高精度だろう」
と考えるのではなく、
CBCTでどれくらいずれるのか?
SGRTではどれくらい動くのか?
6DoF補正量はどうか?
再セットアップは何回必要なのか?
患者は苦しくないか?
成形に何分かかるのか?
を比較する。
これが本当の評価です。
2026年の固定具選びは「TCO」で考える
医療経営では、
TCO=Total Cost of Ownership
という考え方があります。
1枚の価格だけを見るのではありません。
例えば、
製品価格
+
成形時間
+
スタッフ人件費
+
廃棄率
+
再成形
+
在庫
+
納期
+
患者の負担
まで含めて評価します。
さらに、
年間症例数 × 1症例あたりコスト
で考える。
これが病院経営です。
「患者を動かさない」から「患者位置を管理する」へ
私は、これからの固定具の役割は、
患者を完全に動かさないこと
ではなく、
患者を許容範囲内に保持し、ずれたら検出できる状態を作ること
になっていくと考えます。
固定具だけで100点を目指すのではありません。
固定具
×
CBCT
×
SGRT
×
6DoF
×
適切なPTV margin
×
適切なworkflow
で、
最終的な治療精度を作る。
これが現代の放射線治療です。
だから固定具は「必要十分」でいい
ここで言いたいのは、
「安ければいい」
ではありません。
必要な性能を満たすものを選ぶ。
これです。
例えば、
100点の固定具が1枚5万円。
90点の固定具が1枚1万円。
そして、
CBCT+SGRT+6DoFによるworkflowによって、最終的な治療精度が臨床的に同等になるのであれば、
90点の固定具を選ぶ合理性があります。
逆に、
高価なマスクであっても、
自施設のworkflowに合わない、
患者が苦痛を感じる、
SGRTの視野を邪魔する、
成形に時間がかかる、
というのであれば、
本当に「高性能」と言えるのでしょうか。
これからの放射線治療医・診療放射線技師が見るべきもの
固定具を選ぶとき、
カタログの数字だけを見るのではなく、
自施設のworkflowを測定する。
これが重要です。
例えば、
- SGRT→CBCTの一致率
- CBCT後の6DoF correction
- intrafraction motion
- 再撮影率
- 再セットアップ率
- 成形時間
- 患者苦痛
- 1症例あたりの総コスト
を比較する。
これなら、
「A社が有名だから」
という理由ではなく、
データで固定具を選べます。
まとめ
CBCTとSGRTが普及した現在、
放射線治療の精度は、
固定具だけで作るものではありません。
固定具は、
患者を安全かつ再現性よく保持するための一つの要素
です。
そして、
CBCTで内部位置を確認し、
6DoFで修正し、
SGRTで治療中の動きを監視する。
このworkflow全体で治療精度を担保する時代になっています。AAPM TG-302も、SGRTを単独の位置合わせ技術ではなく、内部画像・固定具・QAを組み合わせた包括的なworkflowとして扱っています。
だからこそ、
「高い固定具だから安心」
ではなく、
「必要な性能を満たし、自施設のworkflowに最も適した固定具は何か」
と考えてみる。
そして、
その性能が同等なら、安い方を選ぶ。
これは医療経済として、極めて合理的な考え方です。
高精度ではなく患者利益。
装置ではなく戦略。
workflowがすべて。
固定具も、そろそろ「ブランド」ではなく、
データとコストで選ぶ時代
なのかもしれません。
理論と臨床は違う。
最後は人間。
参考文献
- Al-Hallaq HA, et al. AAPM Task Group Report 302: Surface-guided radiotherapy. Med Phys. 2022.
- Keane M, et al. Randomized self-controlled study comparing open-face vs. closed immobilization masks in fractionated cranial radiotherapy. Radiother Oncol. 2024;110314.
- Apale IP, et al. Assessing the rigidity of thermoplastic masks for head immobilization effectiveness in stereotactic radiosurgery. J Appl Clin Med Phys. 2025.
- Intrafraction motion stability of open vs. closed facemasks in head and neck radiotherapy: Insights from the OPEN phase III trial. 2025.
- Accuracy and workflow efficiency of surface-guided open-face vs. closed-face masks in SRT/SRS for brain metastases. Tech Innov Patient Support Radiat Oncol. 2026;37:100382.
- Quantifying thermoplastic mask quality for precision radiotherapy in head and neck cancer: A 3D stress test and 6D-axis error analysis. 2024.


